生前贈与が特別受益なのか知りたい
相続に関しては,皆さま経験されることがほとんどないものですので,実際に手続が必要となった場合や気になられたという場合に,様々なご相談やご質問をいただくことがあります。
特に,亡くなられた方から,生前に贈与を受けたり,資金援助を受けてこられた場合には,その贈与なりが特別受益に該当するかどうかで,相続の際の取得分が大きく変わってしまうことにつながりかねません。
そのため,自分の受けた生前贈与が特別受益に該当するかどうかという点について,気になられるという方もいらっしゃることと思います。
ここでは,生前贈与が特別受益に該当するかについて,一般的な内容をご説明いたします。
1.特別受益というのは,どういうものでしょうか。
特別受益とは,共同相続人の中で,被相続人から遺贈や生前贈与によって受けた特別な利益のことをいいます。
一部の相続人だけが生前贈与等で高額な利益を得ている(特別受益を受けている)にもかかわらず,相続の際にその利益を考慮しないのであれば,生前贈与等を受けた相続人とそうでない相続人との間で,最終的に被相続人から受けた財産の総額が大きく異なることになり,不公平になります。
そこで,法定相続人間での相続の際に公平を図るため,特別受益分の金額を一旦,相続財産に合算して計算し,そのうえで,各相続人の相続分を計算するのです。
この特別受益相当額を相続財産に合算して計算することを特別受益の「持ち戻し」といいます。
なお,特別受益については,相続人間の公平を図るための制度ですので,著しく不平等になるほどの特別な利益を受けたというものではないと判断される場合には,特別受益とは判断されず,相続分から差し引かれることはありません。
分かりやすく,事例で説明いたします。
・父の遺産は,合計で3000万円とします。
・父は,長男に対して,死亡する5年前に自宅購入の資金として1000万円を贈与しました。
以上の例で,特別受益を考慮しなければ,法定相続分としては長男,次男各2分の1ですので,各々1500万円を取得することになります。
しかしながら,長男は1000万円を生前贈与されていますので父から総額で2500万円を取得していますが,次男は1500万円しか取得できないことになり,不公平になってしまいます。
そこで,長男への1000万円の生前贈与を特別受益として持ち戻して計算することで,長男と次男の公平を図ることにするのです。
特別受益の持ち戻しによって,長男への1000万円の生前贈与を相続財産に加算しますので,計算上の相続財産の合計額は,4000万円となります。
そのうえで,長男と次男が各2分の1を取得することになれば,各々2000万円を取得することになりますが,長男は生前贈与で1000万円を取得しているので,その分を差し引いて,1000万円を取得し,次男は2000万円を取得します。
結果的に長男は遺産の3000万円からは1000万円しか取得できませんが,生前贈与の1000万円を合わせて合計2000万円取得したことになりますし,次男は今回の相続で2000万円を取得することになります。
長男と次男の間で最終的に公平に財産を取得することになるのです。
なお,被相続人が遺言で持ち戻しする必要がないと意思表示している場合と,被相続人の意思表示はないものの,それまでの状況からみて持ち戻しする必要はないという意思表示がされているものと同視できる場合にも差し引かれることはありません。
この場合には,相続人間の公平より被相続人の意思を優先するということになります。
ですから,上記の例で,父が遺言で,長男の特別受益については持ち戻しを免除する旨を定めていた場合には,3000万円を長男と次男各2分の1で1500万円ずつ取得することになります。
2.具体的にはどういうことが特別受益に該当するのでしょうか?
特別受益の対象となる贈与は,以下のとおりとなります。
- ①遺贈
- ②婚姻・養子縁組のための贈与
- ③生計の資本としての贈与
が該当します。
具体的には,
①は,遺言によって無償で財産を譲渡することですが,相続人に対しての遺贈は,原則として特別受益に該当します。
②は,結納金や挙式費用に関しては,よほど一般的な金額からかけ離れた高額の支出でもない限り,特別受益には該当しないと判断されることが多いです。
一方,支度金や持参金は,本来婚姻や養子縁組に必須の費用ではなく,金額も高額になることが多いため,特別受益に該当すると判断されることが多いです。
③は,不動産や車の購入費用,事業の開業資金,高額な学費等が対象となります。
不動産や車の購入費用,事業の開業資金等については,一部の相続人のみに贈与がされている場合には,原則としては特別受益に該当すると判断されることになります。
一方で,学費については,高校までの学費は親の扶養義務の一環と判断され特別受益に該当する可能性はまずありません。大学に関しても著しく高額の授業料や寄付金等が必要であったような特別な場合でなければ,特別受益に該当しないと判断されることが多いものです。
つまり,特別受益に該当するかどうかを判断するに当たっては,被相続人の経済状況,生活レベル,教育水準,他の相続人への贈与額等を総合的に判断して,決定することになります。
そのため,同じ金額の生前贈与であったとしても,特別受益と判断される場合もあれば,判断されない場合もあるということです。
また,上記に該当しない生前贈与であっても,遺産の前渡しと同視できるような贈与であれば,特別受益に該当すると判断されることもあります。
なお,生命保険に関しては,生命保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産ですので,原則としては特別受益には該当しません。
しかしながら,保険金の金額と遺産の総額とのバランス等,保険金を受け取った相続人とそれ以外の相続人の間に明らかな不公平が認められる場合には特別受益と判断される可能性がありますので,注意が必要です。
3.生前贈与が特別受益に該当すると,どうなるのでしょうか?
生前贈与が特別受益に該当することになれば,遺言で特別受益の持ち戻しの免除が指定されていなければ,持ち戻して相続分を計算することになりますので,相続財産(遺産)から取得できる割合は少なくなります。
ただし,持ち戻して計算した金額より,生前贈与の金額が多かった場合には,今回の相続で取得できる金額が0になりますが,差額を返却する必要はありません。
また,生前贈与が特別受益に該当する場合には,遺留分侵害に関しても判断が異なってくる可能性が高くなります。
すなわち,多額の生前贈与を受けている場合には,相続分が少なかったとしても遺留分侵害がない可能性が出てくることになります。
この点に関して,詳しくは幣事務所の【遺留分サイト】をご参照ください。
4.自分への生前贈与が特別受益に該当するのか心配になられたのであれば,相続に強い大阪・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイに
生前贈与が特別受益に該当するかという点に関して,特別受益に該当すると判断される場合には,単純に持ち戻しの問題が発生するだけでなく,場合によっては遺留分侵害の問題も考慮しなければならなくなります。
もちろん,生前贈与がなされたからといって,必ずしも特別受益に該当すると判断されるものであるともいえません。
そのため,被相続人の経済状況,生活レベル,教育水準,他の相続人への贈与額等の具体的な話を伺ったうえで,総合的に判断して決定しなければなりません。
自分への生前贈与が特別受益に該当するのか心配になられたのであれば,相続に強い大阪・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。