不動産の相続の進め方が知りたい
お亡くなりになられた方の遺産分割協議を行うに当たり,遺産の中に不動産があると,遺産の金額も大きくなります。
相続税の申告が必要になる場合も出てきますし,預貯金等のように簡単に分割して取得するということも難しいものです。
そうなってしまうと,どのように話合いを進めればよいのか分からず,遺産分割協議が立往生してしまうことがあります。
では,遺産の中に不動産があった場合,どのように手続を進めていけばよいのでしょうか?
不動産の相続手続自体は,最終的には相続を原因とする所有権移転登記をすることで完了するものです。
しかしながら,そこに至るまでに色々と決定しなければならないことがありますので,その点を含めて,不動産の相続についてご説明いたします。
1.手続を進める前提として,最初に確認しておくべきことはどういうことでしょうか?
遺産のうち,不動産は,預貯金等のように簡単に相続分で分ける等ということができない場合がほとんどでしょうし,通常,財産価値としても高いものです。
そのため,遺産分割協議が難しくなるのではと思われるかもしれません。
確かに,遺産の中に不動産がある場合には,遺産分割協議がスムーズに進まないケースが見られます。
ただし,予め確認しておくべき内容を無視して,行き当たりばったりで話を進めている場合が多いように思います。
まず,話合いをする前に確認しておくべきことがいくつかありますので,それについてご説明いたします。
(1)相続人は何人いて,不動産はいくつありますか?
相続人が1人であれば,そもそも遺産分割協議等は必要ありませんので,相続人が複数いるのは間違いないと思います。
相続人の数が多いほど,色々な意見が出てくる可能性があり,協議がまとまりにくい可能性は高くなります。
もちろん,何人以上相続人がいれば,必ずもめる可能性が高くなるというものではありません。
そうは言っても,2~3人で話合いをする場合と5~6人以上で話合いをする場合に,どちらがまとまりやすいかは明らかであると思います。
ところで,相続人を確定するためには,戸籍を追跡・確認することになりますが,その中で,一緒に暮らしてきた家族以外に相続人が存在していることが判明する可能性もあります。
そうなると,被相続人の生前に交流のなかった相続人が出てくることで,遺産分割協議がまとまりづらくなる可能性もあるのです。
相続人の数が多い場合や交流のほとんどない相続人がいるような場合には,速やかに遺産分割協議をまとめようと思うのであれば,自分が最大限譲れる範囲を事前に考えておく位のことをしておくほうがよい場合もあります。
また,不動産が自宅不動産だけであればそれを誰が取得するか争いになりがちです。
逆に,複数の不動産があってそれこそ相続人全員が不動産を取得できる場合であれば,どの不動産を誰が取得するかという点に関心が移ることになりやすいといえます。
あまりに基本的なことで,何をいまさらと思われるかもしれませんが,最初に相続人調査と財産調査をする中で,きちんと把握しておくべきことです。
(2)被相続人の先代等の名義のままになっている不動産はありませんか?
被相続人が先祖代々の家(土地)を守って,同じ場所で生活されてきたという方の場合,事実上,1人(多いのは長男)が単独で相続して家を継いでいるものの,遺産分割協議書を作成して相続登記をするという本来の手続を取られないまま,不動産の登記名義が先代や先々代のままで放置されているという場合があります。
そのような場合には,登記名義人である先代や先々代の相続人も含めて遺産分割協議をしなければならないことになり,手続が複雑になります。
ですから,そのような不動産がないかを確認しておく必要があります。
(3)利用価値が低い又はほとんどない不動産がありますか?
不動産が複数ある場合に見られることが多いのですが,山林や原野等の通常利用価値がほとんどないような不動産や,空き家として放置されているような不動産がある場合には,相続人間で欲しくない不動産の押し付け合いになる可能性も出てきます。
自宅不動産であっても,相続人全員が独立している等で被相続人が死亡すると空き家になってしまう場合もあり得ます。
そのような不動産がある場合には,利用価値の低い不動産を最終的にどう処理するかという点も含めて話し合う必要が出てきます。
(4)相続放棄や限定承認をする可能性はありませんか?
プラスの財産がいくら多くても,それ以上にマイナスの財産(借金等)があれば,相続放棄や限定承認をしたほうがよい場合もあります。
もし,債務超過等の理由で,相続人全員が相続放棄をした場合には,上記(3)のような利用価値の低い不動産の管理責任の問題が発生します。
そのため,相続放棄等を検討するのであれば,手続後の対応を考えておく必要があります。
(5)不動産は取得した方が利用する予定ですか?それとも売却して代金を分ける予定ですか?
相続人全員が何がしかの不動産を取得するような場合であれば別ですが,自宅不動産しか不動産がないような場合には,不動産を取得した方がその後も自宅として利用される予定なのか,自宅不動産は売却して売却代金を分割して各相続人が取得することになる予定なのかによって,どのように協議すべきか方針が変わってきます。
(6)配偶者居住権について,検討すべき必要がありますか?
例えば,夫婦と子1人の3人家族で,夫が死亡し,遺産としては自宅不動産(評価額2000万円)と預金が1000万円というケースで説明いたします。
この場合,相続分は妻と子で各々2分の1となりますが,妻は引き続き自宅不動産に住み続けたいものの,妻が自宅不動産を取得してしまうと,妻は預金を取得できず,子は3分の1しか取得できないことになりかねません。
しかしながら,令和2(2020)年4月1日施行の改正相続法で新たに定められた配偶者居住権を利用することで,長男が配偶者居住権の制限のついた自宅不動産を取得し,妻は引き続き自宅に居住することができるうえに,預金も取得できるような遺産分割が可能となります。
例えば,配偶者居住権を1000万円とすれば,妻は1000万円の配偶者居住権と預金500万円を,子は配偶者居住権の価格を控除した自宅不動産1000万円と預金500万円を各々取得するという遺産分割ができることになるのです。
始まったばかりの制度ですので,配偶者居住権の価格をいくらと評価するかという部分等明確になっていない点がありますので,必ず配偶者居住権を利用しなければならないというものではありません。
現時点では,必ず弁護士や税理士等の専門家を入れて検討しなければならないものではありますが,相続人間でできるだけ平等に相続できるようにしたいという場合には,検討に値する制度であることは間違いありません。
2.不動産を相続する際の分割方法について教えてください。
(1)現物分割
現物分割とは,相続財産の各々をそのまま相続人に割り振って取得させる方法をいいます。
1つの不動産を1人の相続人が取得することになります。
なお,土地の場合であれば,相続人の人数分の土地に分筆することが可能であれば,分筆したうえで相続人各々が公平に取得することも可能です。
他の財産とのバランスが取れるのであれば,一番問題の少ない方法であるといえます。
そうでない場合には,以下の方法を検討せざるを得ません。
(2)代償分割
ある相続財産を取得した相続人が他の相続人に対して自己の財産を渡す方法をいい,自宅不動産や事業用資産である不動産を細切れに分割しないで済むというメリットがあります。
相続人の1人が不動産を取得し,その代償として他の相続人に自己の財産を譲渡することになります。
この場合は,不動産の評価額を低く抑えたいと考える取得者と,不動産をできるだけ高く評価して高額の代償財産を取得したいと考える相続人側の間で不動産の評価額について争いになることが多くなります。
なお,代償分割で代償金を支払った場合には問題になりませんが,金銭以外の財産(例えば不動産等)を渡した場合には,譲渡した相続人側には譲渡所得税が課税されます。
また,受け取った代償財産が不動産の場合には,その相続人には不動産取得税が課税されます。
代償分割には,このようなデメリットがあります。
(3)換価分割
換価分割とは,相続財産を売却等したうえで,その売却等の代金を各相続人に案分して取得させる方法をいいます。
すなわち不動産を売却してその売却代金を相続人間で公平に分配することになります。一番公平に分割できる方法とも言えます。
ただし,以下のようなデメリットがあります。
不動産を売却する場合には,まず相続登記が必要となり登記費用がかかります。
それに加えて,固定資産税や売却に際して不動産仲介料等の処分費用を負担することになり,財産が目減りすることになります。
また,換価分割の場合には,相続人全員に不動産売却による譲渡所得が生じます。
そのため,譲渡所得税が課されることはもちろんですが,年収が増加することで扶養を外れることになる可能性が出てきます。
(4)共有分割
共有分割とは,相続財産を相続人間で共有する方法をいい,不動産を相続人間で相続分に応じて,その持分で共有するのです。
例えば,不動産を長男と次男で各々2分の1ずつ取得する等の方法です。
ある意味,一番単純にできるというのはメリットであるといえます。
しかしながら,共有分割には以下のようなデメリットがあります。
共有された不動産を処分するにあたっては共有者全員の同意が必要となる等,その後の相続財産の処分等に問題が生じる可能性が高くなります。
また,他の相続人が,共有持分を登記して,持分を処分し,全くの第三者と共有することになり,最悪の場合,共有物分割訴訟を提起され,競売されてしまう可能性があります。
さらには,大規模災害等に罹災した場合等に補償が受けられなくない可能性が高くなります。
なお,先祖代々受け継いできた土地等,絶対に売却することはできないというような特殊な場合には,売却の際の手続の困難さがメリットになるともいえます。
(5)どの分割方法を選択すべきでしょうか?
これに関しては,ケースバイケースと言わざるを得ませんので,相続に強い弁護士に相談されることをお勧めいたします。
自宅として引き続き使用するのであれば,現物分割か代償分割で取得する相続人が引き続き使用できるような解決を図るべきでしょう。
一方で,誰も使用する予定のない土地であれば,換価分割で解決すれば,後の管理や費用負担の心配がなく,最適な分割方法といえます。
複数の土地がある場合には,相続人毎に取得する土地の価格や利用価値のバランスを考慮して,現物分割,代償分割,換価分割を組み合わせて解決を図る方向を検討してもらうことになります。
なお,絶対に売却等をしないようにすべき土地であれば,共有分割の方法も選択肢としてはあり得ます。
3.遺産の中に不動産がある場合に,相続手続を進める際の注意点を教えてください。
(1)取得する相続人が確定できたら,必ず相続登記をしておいてください。
不動産を取得する相続人が確定した場合(遺言による指定,遺産分割協議等)には,必ず,相続登記を済ませてください。
手続の詳細については,【不動産の登記名義を変更したい】をご参照ください。
確かに,相続登記をしないことで,罰則を受けるようなことはありませんし,登録免許税や手続費用等の負担を避けるために放置している場合もあるかと思います。
しかしながら,相続登記を完了させずに,被相続人のままにしておくと,次のようなトラブルが発生する可能性があります。
- 不動産を売却したい場合や,担保にして借入をしたい場合等に,そのままではできません。
- 他の相続人が,共有持分を登記して,持分を処分し,全くの第三者と共有することになり,最悪の場合,共有物分割訴訟を提起され,競売されてしまう可能性があります。
- 大規模災害等に罹災した場合の補償が受けられなくない可能性が高くなります。
(2)相続税の申告が必要な場合には,迅速に進める必要があります。
相続税の申告が必要な場合に,遺産分割協議が完了していなければ,法定相続分で相続したとして仮に申告(申告書の提出と納税)をしなければなりません。
その場合には,配偶者控除や小規模宅地等の特例が使えませんので,原則どおり計算した相続税額を納税しなければならず,納税額の負担が大きくなります。
もちろん,申告の際に仮申告であることを申し出て,後日,遺産分割協議が完了した際に,修正申告をすれば,還付を受けることはできます。
しかしながら,一旦,原則通り計算した相続税額を納税しなければなりませんので,その資金手当が必要となります。
4.遺産の中に不動産がある場合には,相続に強い大阪・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイに
遺産の中に不動産がある場合には,金額も高額となることから,何かと争いの種になってしまいがちです。
また,金額が高額であることから,安易に手続を進めてしまうと,後で思わぬ不利益を被るようなこともあり得ますので,専門家の手を借りていただく方が安心です。
不動産を含む遺産分割協議が必要な場合には,相続に強い大阪・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。