相続が開始した場合の、遺産分割の基本的な流れは以下のとおりです。
①被相続人の遺言がある場合
被相続人の遺言があり,遺言で具体的な遺産分割方法が指示されている場合には,遺言者(被相続人)の意思に基づいて,遺産が分割されることになります。「指定分割」という言い方をすることがあります。
なお,相続人及び受遺者全員の合意があれば,一定の範囲(遺言者の意思を全く無視するようなものではない程度)で遺言の内容と異なる遺産分割をすることは可能であるとされています。
②被相続人の遺言がない場合(遺産分割協議)
被相続人の遺言がない場合には,相続人全員で話合いをして遺産分割の内容を決めることができます。相続人全員の合意ができれば,合意に従った遺産の分割をすることができます。「協議分割」という言い方をすることがあります。
なお,相続人全員による遺産分割の合意ができたことの証明として,その後の遺産分割手続に使用するため,遺産分割協議書を作成して,相続人全員が署名と実印による押印をすることになります。
③相続人全員での話合い(家庭裁判所での遺産分割調停)
相続人全員での話合いでは,相続人全員の合意に至らなかった場合(感情的な対立がきつい,取得する金額の合意ができない,話合いに応じない相続人がいる等)には,家庭裁判所に遺産分割の調停を申立て,家庭裁判所で調停委員という第三者を介して話し合うことになり,調停手続の中で,相続人全員の合意ができれば,調停成立となり,成立した調停の内容に従って遺産を分割することになります。「調停分割」という言い方をすることがあります。
調停が成立すると,調停調書が作成され,その後の遺産分割の手続に使用することになりますが,調停調書の内容に従わない相続人がいる場合には,強制執行をすることができます。
遺産分割の調停も,あくまで家庭裁判所での相続人間の話合いですので,話合いがまとまらず,相続人全員で合意できなければ調停不成立となり,次に説明する遺産分割審判に移行します。
なお,当事者間の感情的な対立が激しい等,調停で話し合っても解決に至る見込みがない場合には,遺産分割の調停申立てをせず,最初から遺産分割審判を申立てることは可能です。
もっとも,当事者から審判が申立てられた場合でも,裁判官が職権で遺産分割調停に付すことができますので,まずは,調停に回されて話合いをすることがほとんどです。
④遺産分割調停が不成立(遺産分割審判への移行)
遺産分割調停が不成立になると,自動的に遺産分割審判に移行します。
遺産分割審判では,通常の訴訟のように,互いに主張と立証を繰り返していき,最終的に当事者の主張が出尽くすまで繰り返されることになります。
審判の途中で,裁判官(家事審判官)から和解を勧められる場合もあり,和解が成立すれば和解調書が作成されて,審判手続は終了しますが,和解に至らなければ,最終的には裁判官が判断を下し,審判がなされ,審判書が交付されます。
通常,法定相続分に沿った分割内容となりますが,審判の内容に不服があるときは,2週間以内に不服申立て(即時抗告といいます。)をすることができます。
最終的に遺産分割審判が確定した後は,審判書の内容に従って,遺産を分割することになります。調停の場合と同じく,審判書の内容に従わない相続人がいる場合には,強制執行をすることができます。
原則としては,遺産分割はこのような流れで解決することになりますが,遺産分割の前提となる内容に関して争いがある場合には,まず遺産分割の前に,別に調停や訴訟で解決しておく必要があります。以下のような場合が該当します。
① 相続人の地位や範囲について,争いがある場合
婚姻や養子縁組の効力を争う場合や相続欠格を認めない相続人がいる場合には,相続人を確定させるための調停や訴訟が必要となります。
② 遺産の範囲に争いがある場合
いわゆる名義預金(被相続人が他人名義で作成した預金のことです。)や名義のみ第三者になっている不動産等がある場合には,その財産が被相続人の遺産になるかという確認訴訟が必要となります。
③ 被相続人の生前に,一部の相続人によってお金が勝手に引き出されていた場合
被相続人の病院代や葬儀費用の支払用にプールしているという場合もあるでしょうが,本来,被相続人の遺産に該当するものであれば,最終的には返還しなければ不当利得となりますので,任意に返還しないのであれば不当利得返還訴訟を起こす必要があります。
なお,上記②,③に関しては,遺産分割調停を申し立てた際に併せて話合いをして,解決を目指すことは可能ですが,話合いで解決できなければ(調停不成立),別途,訴訟等で解決することが必要となります。
④ 遺言書の有効性に争いがある場合
被相続人の遺言がある場合に,相続人間で遺言が有効か無効かを争っている場合には,調停か訴訟で遺言が有効か無効かを確認しなければなりません。
遺産が有効であることが確認された場合には,その遺言の内容に従って,遺産を分割することになりますし,遺言が無効であることが確認された場合には,改めて遺産分割協議を行うことになります。